にじいろインタビュー 第1弾 「聞かせて!子育て奮闘中のお母さんの気持ち」

投稿者: | 2020年5月31日

にじいろインタビュー 第1弾「聞かせて!子育て奮闘中のお母さんの気持ち」

今回、インタビューにこたえてくれたのは、11歳と9歳、2人の男の子がいるハタさんです「にじいろもびーる」のメンバーでもあります。
 シングルマザーとして、睡眠時間2時間の日が続くこともあるという状況で子育てをしています。
 そんなハタさんが最も苦心しているのは、子育てそのものというよりは、福祉制度の不備により必要な支援が受けられないこと。 
 かつてはペットのトリマー・動物看護師、近年は児童指導員として働いていましたが、新たな道を目指して新年度から保育士養成学校に通います。
 ハタさんの今までの歩みと子どもたちへの思いを話してくれました。

●みんな知らないから「しょうがないんだよね」

 次男には重度の知的障がいと軽度の身体障がいがあります。生後すぐから、てんかんの発作などで入退院を繰り返しました。夫が非協力的だったため、真夜中に救急外来を受診する時もどこに行くにも2歳違いの長男連れでしたが、入院中病室に子どもは入れてもらえないので、長男を病室の外で待たせるしかなかったり、救急外来ベッドの次男から離れることを許可してもらえず、長男に1日食事をさせられないこともありました。自宅でも次男が感覚過敏なので寝つけないことが多く、自傷他害のおそれがあって目が離せず、長男も私も眠れないし、あまり遊んでやれませんでした。でも長男はひと言も文句を言わなかったんです。長男が4歳の時、離婚して何週間も不動産屋巡りをしましたが、その時も文句ひとつ言わず一緒にずっと歩き回っていました。ある時、不動産屋でふと足元をみると、私は飾りのスパンコールがびっしりついている靴を履いていたのですが、長男はそのスパンコールを一粒ずつ全部剥がしていました。そうやって長い時間を耐えていたんですね。ひとつずつその飾りをちぎり続けて、黙って我慢していたんです。親が大変だということは、子どもでも見ればわかる。長男は私を困らせないように、文句も言わず甘えることを遠慮してきたんだと思います。

 幼稚園の年長組くらいから、長男の口癖は「しょうがないんだよね」でした。「みんな障がい者のことも障がい者のいる家族のことも知らないから、しょうがないんだよね」って。そのひと言で、いろいろなことを我慢して、すべて終わりにしてしまう。私はそれは納得できないし、させちゃいけないと思ってるんです。障がいのある弟がいると、どうして「しょうがない」で済ませないといけないのでしょうか。長男もひとりの子どもとして当たり前に、家が安心できるところになり、子どもらしく育っていってほしいんです。

●「無理しないで」と言われても、支援がない

 次男を産んでから、いろいろなところで「支援につながれ」と言われました。そのためにはまず、行政に相談に行かなくてはなりませんが、最初はそれすらできませんでした。何とか時間を作って役所に行くと、ひとり親家庭の支援は障がい児はまったく想定外だし、障がい福祉は子どもは対象外だったり、知的障がいだと使えるサービスが限られていたり。「制度だから仕方ありません」と言われるばかりです。「話すだけでも楽になりますよ」「寄り添いますよ」って言われても、助けにはなりません。本当にむなしかったし、人間不信に陥りました。当時、助けてもらえる制度はない、と受け入れ、自分の中で飲み込めるようになるまでには相当の葛藤があったけれど、その苦しさはまったくわかってもらえない。「無理しないでください」って言われても、そうするしかないのに。

 障がいがあることで生活に生じた課題を仕方ないと肯定される。
 私は諦めても、子供がそれを押し付けられて耐えて生きることは、受け入れられないと思っているし、受け入れる必要はないと思っています。自分達には間に合わなくても、変わる必要のある事は、変わっていかなくてはいけない思っています。だから「仕方がない」では終わりにしない。声を伝え続けたいと思っています

 障がい当事者に必要な支援って、その家族の生活も保障するものだと思うんです。家族の生活の最低限を保障されたら、当事者も安心して過ごせる環境をつくっていける。でも行政は障がい当事者しか見ていません。家族は生活を回していくためにバランスをとっていくものだから、バランスが崩れると誰かに負担がかかる。子どものきょうだいにそれを担わせるのはおかしいですよね。行政には「もしお母さんが倒れたら、支援が入りますよ。安心してください」と言われるけれど、私が倒れてしまったら元には戻せないのに、視点がずれています。

 昔は人前で意見を言ったりするタイプではなかったし、当初はどうしていいかわからなくて泣いてばかりいましたが、少しずつ動き始めて、動き始めたら制度に腹が立って、だんだんパワーアップしてきました。本来の自分とは違って、体温がいつも高い感じなのは、戦闘モードでいないとつぶれちゃうからかな。でも、感情的になってしまうとその感情が邪魔になるから、感情は飲み込んで冷静に考えようとする癖が、生きる術として身についてきたかもしれません。それでも感情的になったり、感情に耐えられず潰れそうで苦しい時もあります。

●障がいのある人と暮らす家族のこと、知ってほしい

 人間は知らないものには思いを馳せられないんだろうなと思います。障がいのある人と暮らすのはどういうものか、知らない方には想像できませんよね。障がいのこと、障害のある人と暮らす家族のことを想像ができない相手に、理解を求めていく難しさを感じています。でも知ってもらわないと、何も変わらない。

 長男の学校やPTA、習い事でもそうです。車いすに乗せた次男を連れて運動会に行くと、「校庭ではベビーカーはたたんでください」と言われたりします。イベントや保護者の当番など、次男連れではできないものが多くあります。常に障がいのことやできること・できないことを周囲に詳しく説明しなければ理解は得られません。理解を得られなければ長男に我慢を強いることになってしまうから、ストレスは大きいし手間もかかるけれど、ひとつひとつ丁寧に説明することが必要なのだと思ってやっています。そうすると、私たち親子のことを知ってくれた人たちが助けてくれる。長男の友達のお母さんたちには、長男のお弁当を作ってもらったり代わりにイベントに連れていってもらったり、ずいぶん助けてもらいました。

 長男の友達は、次男にも普通に話しかけます。次男は返事ができないけど、それでも話しかけてくれる。それは長男が次男も一緒にいても嫌がらず普通にしているから、友達も自然にそうなったみたいです。学童クラブでは、新しく入ってきた子が次男のことを怖がったりすると、同じ学年の子が説明してくれる。一緒に過ごすうちにわかっていってもらうのが、いちばん自然でいちばん理解できる方法ではないかと思っています。
 ただし、彼らの言動の裏にある想いの通訳や、お互いの関わり方のコツや橋渡し的なフォローが必要な時もあると思います。でも大切なのは、用意された特別な時間ではなく、自然とそこに居て共に過ごすことなんだという気がします。

〈ページ2に続く〉